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東京地方裁判所 平成6年(む)205号 決定

主文

原裁判中保証金額の部分を取り消す。

保証金額は金一五〇万円とする。

理由

一  本件準抗告の申立ての趣旨及び理由は、弁護人提出の「準抗告の申立書」記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原裁判が定めた保釈保証金額の金三五〇万円は、本件の犯情や被告人の財産状態等に照らして極めて高額で不当であり、また、原審の保証金額の決定過程には手続的な重大な瑕疵があるから、保証金額を金一五〇万円に変更すべきであるというものである。

二  一件記録によれば、本件大麻取締法違反被告事件につき、平成六年三月二二日東京地方裁判所裁判官が保証金額を金三五〇万円として保釈許可の裁判をし、同日弁護人が右保証金を納付し、被告人が釈放されたが、弁護人はたまたま被告人の両親の友人が一時用立てしてくれたため右保証金額を納付できたにすぎないとして、翌二三日、本件準抗告申立てに及んだことが認められる。保釈保証金額を不服とする準抗告申立ての前にその保証金を納付して被告人が釈放されている場合については、保証金の納付は保釈許可の裁判に対する被告人側の上訴権の放棄に相当し、身柄の釈放により被告人側の準抗告の申立権は消滅するという見解も存するところである。しかし、被告人側では保証金額に不服があっても保証金を納付しなければ身柄の釈放を得られないのであるから、右の見解によると、保証金額につき準抗告を申し立てるのであれば、保証金の納付を差し控え、準抗告審の決定がなされるまでの間の身柄の拘束を甘受しなければならないことになるが、準抗告申立てを認めることと引換えに右のような不利益を強制することは余りにも酷であり、合理性を欠くといわざるを得ない。保証金額に不服のある被告人側がとりあえずはこれを納付して身柄が釈放された後に、直ちに右不服を理由とする準抗告申立てに及ぶことは、これを認める必要性があり、このような準抗告の申立てがその利益を欠くと解するのは相当でない。したがって、本件準抗告の申立ては適法と認められる。

三  そこで本件における保釈保証金額を検討するに、一件記録によれば、本件は、被告人がそれまでに何度か一緒に大麻を吸引したことのある友人から、被告人宅において大麻を含有する植物細片約一〇グラムを有償で譲り受けたという事案であるところ、本件大麻は暴力団の組員から流出したものの一部であるが、被告人は末端使用者であり暴力団との直接的なかかわりは認められないこと、被告人は逮捕以降本件犯行を認めており、取調べの当初、譲り受けの日時について譲渡人の供述と異なる供述をしていたものの、最終的には起訴状記載の事実に沿った供述をするに至っていること、被告人は、大学中退後両親と同居している二二歳の若年者であり、前科前歴もないことなどの事情が認められる。これらの事情のほか、被告人の生活状況、家族関係、資産、収入等に照らすと、原裁判が定めた保釈保証金額の金三五〇万円は不当に高額であり、被告人に対する保釈保証金額は金一五〇万円とするのが相当である。

四  よって、その余の点につき判断するまでもなく、本件準抗告の申立ては理由があると認められるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官安廣文夫 裁判官堀内満 裁判官福島政幸)

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